有機食品神話

スケプトイド #19
2007 年 1 月 5 日

今日はタイダイシャツを着て髪を長く汚く伸ばし、科学とアメリカ企業社会に対する憎しみを主張して、近所で最も高い専門スーパーマーケットに入って最もぼったくった値段が付けられた商品の一つである“有機食品”を買うことにする。

有機食品は従来の食用作物(遺伝的には通常の食用作物とまったく同じ植物種)を異なる基準で育てたものである。その意味では有機食品はコーシャー食品と同じような物である。食品そのものは同一のものだが、異なる哲学的基準に従って提供される。コーシャー食品の基準がラビの権力者たちによって定義されるように、“有機認定”ラベルが付けられる食品の必要条件は USDA(訳注:米国農務省)の国家有機プログラムによって指定されている。基本的に現代の合成肥料や合成殺虫剤の使用を禁止してそれに相当する有機物を使うこと、動物に関しては健康を維持するために抗生物質を使わないことが必要条件になっている。他にも規則があって、基本的な目的は発育/調理/保存のすべての段階において自然な製品だけを使うことを必要条件とする。

有機食品は従来の食品より高価である。それは低い収穫率とより高価な有機肥料や有機殺虫剤を大量に必要とするだけでなく主な理由は有機食品が大人気で需要が高いからである。

なぜそうなのか? 有機食品はより健康的なのか? それは重要な政治的な声明なのか? 通常の論点は以下の3つの点にまとめられる:巨大な悪徳企業ではなく小さな農場に利益をもたらし、どういうわけかより健康的な食品で、そして環境のためにより良い栽培方法だということ。感情的に満足なこれらの利点を額面通りに受け入れず、実際のデータが何を示しているか懐疑的な目で見てみることにする。これらの3つの利点という主張を1つずつ見てみる。

有機食品を買うことで小さな農場に利益をもたらし、食品大会社に打撃を与える。

大手食品生産会社に打撃を与えることを認めるとしよう。アフリカで餓えている何百万人もの人々がその心遣いに感謝することだろう。

有機食品はとても大きな商売であることに気がついて欲しい。スーパーマーケットの有機農産物売り場が地元の小さな農場を代表している日々はとっくに終わっているのだ。カリフォルニア州だけでも6億ドル以上の有機農産物を生産していて、そのほとんどはたったの5つの農場からのもので、それらの農場は州内のほとんどの非有機農産物も生産している。70%の有機牛乳はたった1つの大手牛乳生産会社が支配している。

5年から10年前に有機食品が流行し出したのを大手食品生産会社が見た時に、あなたは彼らが何をしたと思っているのか? 彼らは少ない商品を高い値段で売れることを嗅ぎ付けて、有機作物を生産し始めたのだ。米国内のほとんどすべての有機作物は従来の作物を生産する会社が栽培/配給/販売しているのだ。彼らはあなたがどっちを買うかは気にしないのである。あなたは自分の財布以外には誰にも打撃を与えてないのである。

トレーダー・ジョーズは有機天国の南カリフォルニア州を中心に全米何百カ所にも店を持つ有機食品/ベジタリアン食品/代替食品を専門にするスーパーマーケット・チェーンである。お客さんたちは小さい家族営業の雰囲気のある店内の健康食品のイメージをありがたく思っている。本当にそうなのか? トレーダー・ジョーズの売り上げ概算は45億ドルである。2004 年度フォーブス誌で世界大金持ちランク22位のドイツ人億万長者のシオ・オルブレクトによって設けられた家族信託がトレーダー・ジョーズを所有している。彼は食品雑貨総収入370億ドルにもおよぶドイツの ALDI の共同創立者かつ CEO である。Business Week によると、1990 年代にトレーダー・ジョーズの利益は 1000% も増加した。トレーダー・ジョーズは店の管理者に対して初任給年収4万ドルを与えるなど従業員に対して積極的に報酬を払う。彼らは組合に属さない従業員だけを雇う。それはどんな資本主義者や商売心のある人にとって何も悪いことではない(あなたが組合賛成か大企業反対でない限り)。トレーダー・ジョーズは偉大な企業で大きな成功をおさめている。トレーダー・ジョーズのお客さんたちは健康的なイメージのためにプレミアム付きの値段を喜んで払う。しかし、間違っても大企業に打撃を与えているとか中小企業を支援しているなどと思わないでもらいたい。

大企業反対主義がなぜ有機食品主義になってしまったのか直観に反するのでわたしにはよくわからない。有機食品会社は耕作面積あたり少量の食品を供給することで、劇的に高い利益を受けることができる。皮肉なことに、これがそもそも大企業反対主義者たちが大企業を嫌う理由なのだ。

大商売としての有機食品についての詳しい情報は、consumerfreedom.com に行って organic foods を検索してみて欲しい。

有機食品はより健康的である。

中国人がなぜ熱いお茶だけを飲むかあなたは不思議に思ったことがあるだろうか? 彼らは水を沸騰させることでバクテリアを殺しているのである。中国の地方のほとんどは唯一の肥料として人間と動物の廃物を使う有機農法が行われている。水を沸騰させないということは、一杯の美味しい大腸菌を飲むことになる。中国や貧困なアジアの国々では、有機農法を行うことはイデオロギーとは関係なくむしろ現代農業技術を利用できないことが理由である。

支持する証拠がないにも関わらず2対1の割合でアメリカ人は有機食品がより健康的だと信じていると National Review は報告している。同種の植物を二種類の異なる方法で育てても、その植物の科学的かつ遺伝的構成は最終的には同じである。一方の栽培方法がより効果的なら、それはより大きく育つかもしれないが、基本的な構造と生化学的成分はその遺伝子によって定義されているのであって、それがどうやって栽培されたかによってではない。Consumer Reports は見た目/味/歯ごたえなどに一貫した違いは何も見つけられなかった。“有機栽培によってすぐれた栄養価値の作物が収穫できる”のような統括的な声明には論理的または事実に基づく根拠はないのである。

有機栽培の支持者の中に非有機食品には化学殺虫剤が残留している危険があると主張する人々がいる。この主張はさらにバカげている。有機殺虫剤は現代の合成殺虫剤に比べて効き目が弱いので最高7倍の量を使わなくてはならない。有機殺虫剤には、パーキンソン病を起こすことが示されている上にある原住民族は自然の毒素として狩りに使っているロテノン、発ガン性の除虫菊、ミツバチにとって猛毒であるサバジラ、病気を起こすかどうかにかかわらずわたしの食べ物に残留していて欲しくない発酵させた小便が含まれている。有機食品の支持者たちはより多く使われるそれらの化学成分はすべて自然の物なので問題ないと主張する。しかし、単に自然の物だからというだけでそれが安全だとか健康的ということにはならない。毒ニンジン、水銀、鉛、毒キノコ、ハコクラゲの神経毒、アスベストだけでなく、ほぼ無限に近い数の有毒バクテリアやウイルス(大腸菌、サルモネラ、ペスト菌、天然痘ウイルス)を忘れないで欲しい。原料がすべて自然の物であるという理由でそれが健康的だという話を耳にしたら、懐疑的になりなさい。“すべて自然の物”であることがその製品が健康的であることにはならないのである。

従来の農場はあまり健康的ではない食物を生産するという主張の論理的不合理も考えものである。有機頭の人にとっては従来の農場は利益率にだけ興味がある欲深い悪徳会社ということらしい。利益率を改善するための最適な方法は何か? より少ない殺虫剤と肥料を買うことである。これは最新の最も効率の良い殺虫剤や肥料を使わなければならないということである。食品に危険な殺虫剤が残留するという考えは何十年も前の古い話である。食品生産の行程は最も規制が厳しく細かく調べられる対象の一つである上に現在の合成殺虫剤や合成肥料は完全に生物分解されるのである。それらは安全性を証明する何十年もの研究によって支持されている。

2006 年に米国内で死者と発病者を出す2件の大きな大腸菌のアウトブレークがあった。最終的に有機的に栽培されたほうれん草とレタスが原因であることが突き止められた。世界食料問題センターによると、有機食品は米国内で売られたすべての食品の約1%を占めているが、大腸菌被害の8%は有機食品が原因なのである。

有機栽培方法は環境に良い。

有機農法は従来の栽培方法と同じ量の作物を生産するのに約2倍の耕作面積を要するので、未開拓の土地を破壊することに直接つながっている。最近カリフォルニア州アーバインのタナカ農場へのガールスカウトの遠足に同行したときに、オーナーの一人が彼のウェブサイトに書いてあることと矛盾するちょっとした秘密を話してくれた。数年前に市場の状況が彼らを有機農法に移行させたが、彼は有機農法が大嫌いである。単位面積あたりの収穫が減ってしまったからである。有機農法はより少ない食物を生産し、より多くの耕作面積を必要とするのである。

いわゆる環境保護主義者の多くは一般的に有機農法を好むと同時に農地を増やすための山林開拓に反対する。彼らはどうやってこれらの直接対立する見解を持つことができるのか? もし増加する人口に食料を与え続けたいなら、両方はできないばかりか、そのうちどちらもできなくなる。もし熱帯雨林を保護したいなら、特に発展途上国では論理的には有機農法に反対すべきである。一方で、もし有機大豆を要求するなら、世界中の黒人や褐色人種の人々に十分な食料があるかどうかはどうでもいいとあなたは思っていると堂々と主張すべきだ。

わたしはこの話をでっちあげているわけではない。ボンゴを叩く有機好きのドレッドロックスの白人の子供一人につき、一人の農学博士が有機農法の先見性のなさについて警告し増加する人口に食料を与えるために効率の良い現代農法を薦めている。個人的にはわたしは森や自然が好きなので、すでに存在する農地をできるだけ効率良く使うことを望む。これはすべての人にとって恩恵がある。悪徳企業を嫌うエネルギーから生じる食物に対する使い物にならない超常的な反論は捨てて、一度でいいから脳をわれわれの有利のために使うことを提案する。同じ作物をより速くより強くより健康的により効率良く作る方法を見つけたら、その方法を使おうではないか。われわれみんなに恩恵があるのだ。

Brian Dunning
ブライアン・ダニング

参考
© 2009 Skeptoid.com

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