夜中の暴行:暗闇のエイリアン

スケプトイド #08
2006 年 11 月 21 日

わたしが五歳の時にわたしの独身の母親は真夜中にベッドの上で幽霊に襲われた。二つの見えない手で急にベッドに押し付けられて動けない状態にされた。数分間抵抗したがしゃべることも動くこともできなかった。しばらくしてやっと束縛から解放されたので急いで部屋を出てわたしと兄弟の共有する部屋の床の上で朝まで過ごした。それ以来自分の寝室にひとりでは行かなくなった。わたしはこのことがあったので、他の人々の幽霊の話を耳にする度にわたしが子供の時には本物の幽霊が家にいたんだということを思いながら育った。

ビッグフットやドラキュラ、バンシー(訳注:家族の死を予告する妖精)や妖精、ゾンビや狼男などの化け物や幽霊に関する本をわたしは熱心に読んだ。その中で特にわたしの興味を引いたのは夜中の暴行に関する話だった。夜中の暴行はまさにわたしの母親が経験した襲撃だが、襲撃者は目に見える幻影であるようなより生々しい経験であることもしばしばあるという。国や100年単位で違ったりすることはあっても、何年にも渡って襲撃者の容貌は不気味なことに似ているということを知って特に興味をそそられた。英語文化圏では、もっとも一般的な襲撃者は被害者をベッドに押さえつけるか胸の上に全体重を乗せて座り込む“老魔女”(原文:Old Hag)と呼ばれる恐ろしい黒服の老婆である。この“老魔女”と夜中の暴行に関する話は古くは中世までさかのぼる。それはわれわれの歴史の中にかなり長い間定着してきたので良く眠れなかった人に対して“やつれてる”(原文:haggard)という表現を使うまでに至っている。インドでは、モヒニと呼ばれる美しいが死をもたらす魔女である。英語文化圏で老魔女と頻繁に描写されるのと同様に、インドでは怪力の若い美女と描写される。スラブ文化では、野性的な光る目を持つ小人のようなジプシーが胸の上に馬乗りすると描写される。調べれば調べるほど、それぞれの文化にはそれぞれ独特の暴行犯を見つけることができた。

超自然現象の有望学生として、わたしはそれぞれの文化的な共通点に魅了された。歴史を通して各文化に共通の特定な襲撃者によって同様な襲撃があった。その後、難関を突破する出来事があった。1960年代後半に、米国内のほとんどの襲撃の犯人として“老魔女”に代わる新しい襲撃者が現れ始めた。わたしが何のことを言ってるかまだわからない? 1965年にベッティーとバーニー・ヒルが1961年に彼らの車からエイリアンに誘拐されて宇宙船内で恐ろしい医学的実験対象にされたという彼らの主張を公にしたのだ。興味深いことに、彼らの描写は古典的な夜中の暴行と共通点はないにもかかわらず、彼らが描写した一般に“グレイ”と呼ばれるタイプのエイリアンがアメリカの新超自然現象のスーパースターになったのだ。夜中の暴行は今までと同じくらいの頻度で起こり続けたが、今日報告されるほとんどの襲撃者はグレイ・エイリアンになった。“老魔女”がちょっと時代遅れになってきた、あるいはやつれてきた(原文:haggard)ところに、ちょうどグレイ・エイリアンがアメリカの意識の中に入り込んだのだ。インドの子供たちが夜中に体を麻痺させる悪霊マホニの話を聞いて育ったように、われわれは夜に寝室を訪れて襲撃するというグレイ・エイリアンの話を聞いたことがあるアメリカ人の世代なのである。

本当にそんな単純なことなのか? あたなの文化経験が予期させるという根拠だけでおびえた脳は目に見える姿の襲撃者を想像させるのか?

あなたはすでに知っているかもしれないが、わたしの母親の襲撃の25年後にわたしは睡眠麻痺について初めて知った。夜中の暴行は臨床的には睡眠麻酔と呼ばれる。睡眠麻酔には、しゃべることや動くことができない、胸を押しつぶされるような圧迫感、および視覚、聴覚、触覚、あるいは妙な臭いなどの幻覚を伴うという特徴がある。それはレム睡眠中にしか起こらない。特にレム睡眠の始まりか終わりに良く起こる。睡眠麻酔は仰向けにねている人に5倍の割合で起こりやすい。プロザック(訳注:抗鬱剤)などの薬が睡眠麻酔の発作を抑えるのに効果があることがわかっている。睡眠麻酔の発作には幻視は含まれないが、夜中の暴行の報告には良く幻視が含まれている。睡眠麻酔は良く理解されて良く記録されてほとんどすべての医学的専門家に認められている心理的な現象である。

それならなぜわたしがわたしの母親の経験と睡眠麻酔を結びつけるまでその後さらに数年必要だったのか? わたしが睡眠麻酔についての本を読んでいる時に明白な答えが文字通り目の前にあったというのにも関わらず、わたしはあまりにも長い年月わたしの母親は幽霊に襲われたのだと完全に信じ込んでいたので、それ以外の合理的な説明を他に探そうとすらしなかったのだ。ほとんどの人が睡眠麻酔について少なくとも聞いたことがあるにも関わらず、自分の睡眠麻酔経験をエイリアンに誘拐されたとか夜中に幽霊に襲われたなどの超常的な説をその信者が固く信じてゆずらないのはおそらくこれが理由だろう。

エイリアンや幽霊の信者に彼らの経験に関する説明として睡眠麻酔のことを挙げると、彼らは知られている睡眠麻酔の症状と彼らの体験には違いがあることを指摘するだろう。もちろん睡眠麻酔の知られている症状は視覚、聴覚、触覚への幻覚なので、睡眠麻酔ではない特質を指摘するのは彼らにとって難しい。これは懐疑論者としては気まずい立場である。信者が何を言ってもわれわれは“それは幻覚です”という説明で片付けられる。これはまるで創造論者が何に対しても“神様がやった”という説明で片付けて何の証拠も提示しないのと同じである。その違いは、われわれは夜中の暴行に悩んでいる人たちをテストできることだ。結果として、彼らがベッドに横たわって麻痺した状態を撮影したビデオにグレイ・エイリアンがまったく写っていないことを提示できることだ。

30年以上もかかったが、わたしはついにわたしの母親の夜中の暴行が何だったかを少なくともわたしにとって満足できるように説明することができた。わたしの母親がこの説明をどう思っているかあなたは知りたいところだろう。わたしの母親は医学校に行って、生涯バイオテック会社で働いて、とても科学的な考え方を持っていて、今でも幽霊に襲われたと確信している。わたしの母親はベティーとバーニー・ヒルの話を読んだことがないのだ。

Brian Dunning
ブライアン・ダニング

参考
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