本当のアミティービル・ホラー

スケプトイド #20
2007 年 1 月 11 日

ニューヨーク州ロングアイランドにあるアミティービルという小さな町で 1974 年のある暗い晩に 23 歳のロナルド・“ブッチ”・デフィオが酒場に駆け込んで彼の家族全員が撃たれたことを宣言した。警察はオーシャン・アベニュー 112 番地にあるデフィオの家で6人の死体を発見し、その後の捜査で“ブッチ”・デフィオ自身が両親と4人の弟と妹の家族全員をマーリンライフルを使って射殺したことが明らかになった。彼の頭の中の妙な声が彼の家族を殺するように強制したというデフィオの主張にもかかわらず、彼は6人の殺人に対して有罪判決を受け、現在に至るまで刑務所に監禁されている。

殺人から1年ほど経ったころに、新婚のジョージとキャシー・ラッツ夫婦がその殺人があった家を購入し、彼らの3人の子供と一緒にその家に引っ越した。その家は家具付きで売られたのでデフェオ家のすべての家具は殺人があった晩のままそこにあった。ジョージ・ラッツはその殺人のことを聞いていたので念のためその家を清めてもらうらためにキャシーの知り合いの牧師を呼んだ。肉体から遊離した怒った声によって牧師がその家から追い出されて彼の皮膚に焼印の火傷を受けた時から妙なことが起こり始めた。ラッツ家の娘は後に家族に対しては窓を通して現れる親しみのあるジョディーという名の豚がいると言いはじめた。彫刻されたライオンに命が吹き込まれて家の中を歩き回って、ジョージ・ラッツを噛みつきもした。悪魔のような少年の幽霊が現れて、その姿が写真に収められた。その写真はインターネット上で見つけることができる。怒った赤い目が夜に家の中を覗き込み、雪の上に悪魔のひずめの足跡が残されたりした。ジョージ・ラッツは毎晩デフィオ家が殺害された時間に汗をかいて目を覚ました。地元の超常心理学者であるステーブン・カプランが調査のために呼ばれた。強力な力でドアがちょうつがいから外れて吹き飛んだ。キャシーの胸部には妙な赤い印ができて、ベッドから2フィート(訳注:約60センチ)宙に浮いて、ジョージはキャシーが醜い老魔女に変身するのを見た。家の壁から緑色のスライムがにじみ出て、壁にかけた十字架は頻繁に勝手に上下逆さまになった。そして、ラッツ家が説明することのできない恐怖の最後の夜に、家族は家を追い出され、二度と戻らなかった。彼らはたった28日間しかその家に住むことができなかった。

これらの出来事は驚くことではない。なにしろデフィオ家が殺害される何百年も前に地元のシネコック・インディアンがその土地で病人や瀕死の人のための精神病院として使っていたのだ。悪魔のネガティブ・エネルギーはアミティービル・ホラーの家にとって何も新しいことではないのだ。

それで次に何が起こったのか?

(表向きには幽霊の出没に邪魔された結果として)商売がうまく行っていなかったジョージ・ラッツは転機を期待してプレンティス・ホール出版社を呼んだ。“エクソシスト”が2年前に公開されたばかりで成功を収めていて、悪魔や虐待された牧師などが世間一般の意識の中に定着していたので、プレンティス・ホールはラッツ家の経験をお金にすることを切望した。その出版社は“アミティービル・ホラー”という本を書いてもらうために著者ジェイ・アンソンを雇って、その後は知っての通り。その本と後の9本の映画はかなりの成功を収めた。ほとんどの映画評論家はそれらの映画はすべてバカげていたことに同意するが。

話が怪しくなり始めたのはジョージ・ラッツがまだその家に住んでいた28日間にあったある会合からだった。彼があった男は他ならぬブッチ・デフィオの被告側弁護士のウイリアム・ウェバーだった。どちらがその会合を持ちかけたのかは不明である。後年のウイリアム・ウェバーの告白によると、その会合によって生じたことは両人の興味を満たす同意だった。そして“エクソシスト”からの一部の要素を元に幽霊出没話がでっち上げられた。ジョージ・ラッツはデフィオ家殺害を元にした幽霊話の潜在的な営利性からの利益のために、ウェバーは彼のクライアントであるブッチ・デフィオの新しい弁護理由としてである。ラッツ家の経験による証拠から、悪魔が原因で、少なくともブッチの頭の中では、ブッチ・デフィオが家族の殺害したことになるのだ。

その本が出版される前に、ラッツとウェバーは幽霊の出没をできる限り宣伝することにした。彼らのもっとも注目に値する成功は、エドとロレイン・ウォレンの二人の心霊術師を連れてきたニューヨーク州のチャンネル5からのテレビ取材班で、その二人がカメラの前でその家は悪意のある魂に苦しめられているとカメラの前で証言したことだった。他の心霊術師も別途すでにその家を訪れていて、本が出版されたころにはベストセラーにするための下地はすでに整っていたのである。現在でもウォレンはアミティービル・ホラーは本物の幽霊の出没だったと言って、彼らの経験をウェブサイト warrens.net に記述している。

その本によって十分なお金ができたところで、訴訟が始まった。ラッツとウェバーはお互いと、さらにほとんど他の誰もかも、契約違反や名前の不正使用や精神的苦痛などを主張して訴えた。裁判官はその本がウェバーの提案と“エクソシスト”の人気を元にした作り話だったという容赦のない説教と共に最終的にはすべてを法廷の外に追い払った。

ラッツとウェバーのマーケティング計画としてラッツ家がその家に住んでいた時に呼んだ超常心理学者のスティーブン・カプランに話を戻してみよう。実のところ、カプランはラッツ家の話が本当だとは思わず、その場で彼はだまされたのだと結論した。後に、アンソンの本が有名になったころ、カプランは彼が偽物だと思ったラッツ家の話が超常現象の研究の名を汚すのではないかと心配になって、彼は百を超える実際の矛盾を挙げた“アミティービル・ホラーの陰謀”という本を書いた。

その矛盾の中の一つに、シネコック・インディアンまたはその他のどの部族も現在のアミティービルの近くに住んでいたことはないという事実がある。シネコック・インディアンたちの話によると、最も近いシネコック・インディアンの居住地ですら70マイル(訳注:112キロ)も離れていた。シネコック・インディアンのウェブサイトは shinnecocknation.com にある。

ラッツ家が引っ越して来たときにその家を清めようとしたが襲われてしまったと言われているペコラロ牧師は、その家の歴史に基づいて悪の魂の心配があることをジョージ・ラッツに話したが、彼がその家を訪れた時には襲撃や悪魔の脅迫など変わったことはいっさい何も起こらなかった。ペコラロ自身による宣誓供述書を含むいくつかの報告によると、彼はその家をまったく訪れてなく、ラッツ家とは電話で話しただけということになっている。結果として、著者ジェイ・アンソンは彼の本のためにマンキューソ牧師という新しい牧師を作り上げなくてはならなかった。火傷を負って幽霊の警告を受けた唯一の牧師は空想の人物だったのである。

他にも多くの矛盾がある。その家のどのドアにも窓にもちょうつがいが外れて吹き飛んだ痕跡は見つけることができなかった。すべて元から使われていた部品で損傷なくしっかりと取り付けられていた。本には警察を呼んだり警察が訪問したりという出来事がいくつも挙げられているにも関わらず、地元の警察の記録によるとその28日間にその敷地からの電話もその家への訪問もなかった。近所の家を巻き込むような騒動についても同じことが言える。雪の上にひずめの後を残したはずだが、その間に雪は降らなかった。手短に言えば、その本には物的証拠を残すような出来事がいくつも書いてあるにもかかわらず、証拠と主張するものはどれも厳密な調査によって否定された。実際に、反証可能なことはすべてカプランや他の調査員によって簡単に反証された。ちなみに、その家を訪れたところをテレビで放映されて有名になることができたウォレンたちはカプランの本は間違いで単に彼自身が有名になるための企てだと考えている。

もしあなたがこのポッドキャストを何回か聞いたことがあるなら、あなたがとんでもない話や物理の法則に反するような主張に出くわした時は、懐疑的になりなさいと、わたしが勧めることをすでに知っていることと思う。アミティービル・ホラーの場合、本に書いてあるような出来事が起こらなかったことを示す多くの証拠が存在するし、何かが起こったという唯一の証拠は明らかに商的興味を持つ個人からの必ずしも信用できない証言だけなのである。ほとんどの読者が良くできた恐怖話と評判するその本を読みたかったら、大衆文化の最も魅力のある長生きしている物語を生んだ作り話として楽しみなさい。

Brian Dunning
ブライアン・ダニング

参考
© 2009 Skeptoid.com

Newest
デスバレーの生きる石
スケプトイド #21, 2007/1/15
読む
 
本当のアミティービル・ホラー
スケプトイド #20, 2007/1/11
読む
 
有機食品神話
スケプトイド #19, 2007/1/5
読む
 
“新”権利章典
スケプトイド #18, 2007/1/1
読む
 
インターネット被害妄想狂
スケプトイド #17, 2006/12/28
読む
 
本物のフィラデルフィア・エクスペリメント
スケプトイド #16, 2006/12/24
読む
 
SUV 恐怖症
スケプトイド #15, 2006/12/20
読む
 
飛行機内での携帯電話の使用
スケプトイド #14, 2006/12/15
読む
 
科学的試験方法入門
スケプトイド #13, 2006/12/11
読む
 
信仰を殺している:解体論者のキリスト教徒
スケプトイド #12, 2006/12/7
読む
 
間違った科学でのビッグフットの否定
スケプトイド #11, 2006/12/3
読む
 
創造論者のための進化論入門
スケプトイド #10, 2006/11/30
読む
 
宗教上の罪:何か利点はあるのか?
スケプトイド #09, 2006/11/26
読む
 
夜中の暴行:暗闇のエイリアン
スケプトイド #08, 2006/11/21
読む
 
池の水用磁石の愚かさ
スケプトイド #07, 2006/11/14
読む
 
青汁
スケプトイド #06, 2006/11/9
読む
 
持続可能な持続可能性
スケプトイド #05, 2006/11/1
読む
 
超自然的なことを商売にすることの倫理
スケプトイド #04, 2006/10/24
読む
 
ロッド:空飛ぶばかげた話
スケプトイド #03, 2006/10/19
読む
 
道徳の核心としての宗教
スケプトイド #02, 2006/10/11
読む
 
ニューエージ・エネルギー
スケプトイド #01, 2006/10/3
読む
 
Skeptoid Podcast Skeptoid Podcast   Skeptoid on Facebook   Skeptoid on MySpace   Skeptoid on Twitter