池の水用磁石の愚かさ

スケプトイド #07
2006 年 11 月 14 日

網を右手に pH 試験キットを左手に持って、鯉池管理の最新の流行品である“磁石”をテストするために池化学の淀んだ水に足を踏み入れてみよう。

オレゴン州ポートランドに住むわたしのいとこを訪れた時に、彼は自慢の鯉池を見せてくれた。わたしも鯉池を持っているので、フィルターや水質テストや水生植物の種類などについて情報交換した。彼のメイン・フィルターのパイプの周りには強力な磁石が配置してあった。わたしはこんなものを見たのは初めてだった。わたしは池に関して特に詳しいわけではなかったので、きっとその磁石はポンプからの金属片をとらえるために付けているのか何かだろうと思った。彼にその磁石は何のためにあるんだと聞くと、よくわからないけど水の化学的な何かだと彼は言った。即座にわたしのレーダーが反応した。パイプの内側に磁石で留めておくには大量の鉄またはニッケルまたはコバルトが水の中に存在しない限り、物理的に磁石が水の中のものに影響するわけがない。

必要がある時にわたしが普段よくやるように、インターネットで調べることにした。磁石と池に関する一般的な主張は何の苦労もなく見つけることができた。藻の成長に何やら関係するらしい。その主張は、パイプに沿って配置された磁石は自由に浮遊する藻の鉄分の整列を変えることによって水の透明度を向上して光合成を抑制するということだ。パイプの内側への石灰の蓄積を減少させるという参照も一つか二つ見つけたが、どういう仕組みでそういう効果があるのかを示すことすらしていなかったので相手にしないことにする。石灰は炭酸カルシウムなので、そもそも三つの磁気元素のどれも含んでいないので磁石はまったく影響しないのである。この主張に関しては自滅してるので、わたしの助けは要らない。

藻の減少についてはどうなのか。その主張によると、鉄分の再整列によって光合成が抑制されるので藻を減少させるということだ。この手の主張は良く見かける。何の根拠もないのである。しかし、多くの人はそれが科学的に聞こえる用語を使っているというだけで疑問に思わずその主張をそのまま受け入れてしまう。池屋に勤めるわたしのいとこの友達がそうしたように。そして、その店員がわたしのいとこに話した時にわたしのいとこがそうしたように。彼が磁石のことをわたしに話してくれた時には、合理的な説明が見つかるまでの間だけだったとはいえわたしですらそうしたように。

この主張には2つの問題がある。第一に、光合成は炭水化物の化学反応だということ。鉄分は関与しないのである。鉄分の存在は光合成を妨げもしないし助けもしないのである。近くに存在する鉄分子の磁化方向とも無関係なのである。鉄分を磁気的に再整列することは光合成に何の影響もないし、間違っても植物に悪い影響はないのである。第二に、人間の血に含まれるヘモグロビンに存在する鉄分は、葉緑素または植物中の光合成に関与するその他のタンパク質には存在しない。わたしは一日に何回も植物に磁石をかざすことに時間を費やしたことはないが、もし光合成が停止してその植物が結果的に死んだとしたらわたしはかなりびっくりするだろう。

この主張のもう一つの問題は、磁化されていない物を磁界にさっと通すことによって、磁石がなくなった後でも磁気の変化が残るという概念である。これはまるで室内の照明を点けてまたすぐに消した後に家具が光で汚染された状態のまま残ると言っているのと同じである。電磁放射はそんなふうには作用しなのである。

言っておくが、わたしがこの主張を調べようと思った時に、この主張が不利になるのに十分な情報が集まった時点で調べるのをやめようとはまったく思ってない。藻に対する磁石の効果を支持する研究を見つけるのに十分努力したのである。しかし、もっともらしい主張がそもそもないので、テストしようにも誰も何もできないのである。とはいえ、それに近いものは見つけた。2005年にウッズ・ホール海洋学会が磁化結晶を含むことが知られているある種の細菌の研究結果を発表した。1970年に磁化結晶の磁性が反転した磁性細菌が南半球で発見された。この小さな細胞内方位磁石の目的は理解されていないが、何しろ1970年の発見なので、酸素濃度が高い水を見つけるために上下を判断するのにその方位磁石を使ったのではないかという仮説がそのままずっと提案されている。この仮説は南半球では磁性が反転している必要があったという点をうまく説明できる。

池の水用の磁石製造会社にとっては悲しいことに、ウッズ・ホールの研究は北磁性と南磁性の細菌の両方を北半球にも南半球にも存在することを発見した。さらに、その磁化結晶をまったく含まない個体がいくつも存在することも発見した。3つすべての種類の細菌は望ましい酸素レベルの水深まで同様にうまく移動することができる。研究の結論は磁性結晶の目的は相変わらず理解できないということだ。理解できたことは、磁性が反転していようが磁性がなかろうがその細菌の健康や生活に何の違いもなかったということだ。そして、顕微鏡のスライドから棒磁石を遠ざけたら磁性細菌はそれぞれの細菌の磁性にあわせて地磁気の方向にあわせて普通に再整列したということだ。短時間磁石を近づけたというだけでその磁気の影響が後々まで残るようなことはなかったのである。

あなたが自分自身でこの主張について調べることをわたしは薦める。または、店員がありそうもないことやあなた自身が理解する自然の法則に反するようなことを主張する商品を売り込んできたら、少なくとも合理的な説明を求めなさい。

Brian Dunning
ブライアン・ダニング

参考
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